患者さんの必要エネルギーの計算方法を知りたい。太っている人もそのまま計算していいの??
ハリスベネディクトの式を使っているが、実臨床にイマイチ合わずモヤモヤしている・・・。
こんな悩みを抱えている、病院栄養士(医療者)向けの記事です。本記事では 栄養管理で最も悩ませる問題のひとつ、「必要エネルギー量」についてまとめました。
健康な人の計算はこちら
✔本記事の内容
必要エネルギーを算出する手順と計算例
- 必要エネルギーの算出式は 1⃣×2⃣=〇〇〇〇kcal/日
- 1⃣体重
- 2⃣定数
記事を書いている私は病院で働いています。私は病棟での栄養管理を中心に仕事をしていて、各種ガイドラインを読んでいますし、毎日患者さんの必要エネルギーを計算しています。
この記事を読めばハリスベネディクトの計算式は使わないので、急な問い合わせにも電卓片手に必要エネルギーが即答できるようになります。他の職種からも重宝されます。ぜひご覧下さい。
計算式に使う体重の決定方法

まず、エネルギー算出をしたい患者さんの計算式に用いる体重(BW)を決めます(単位はkg)。
以下の2つのSTEPで決めます。 情報が無い、体重測定ができない場合は身長をメジャーで測定。
- たまっている→ 普段の体重が候補。STEP2-1へ(UBWルート)
- たまっていない→ 今の体重が候補。STEP2-2へ(BWルート)
- 情報が無い or 体重を測定できない。STEP2-3へ(IBWルート)
- 患者の普段の体重(UBW)を聞き取り等で確認、BMIを算出。※ BMI=UBW(kg)/身長(m)/身長(m)
- 算出されたBMIが下記の表でどこに該当するかを確認、目線を右へ
- ABW・IBW・UBW・UBW+追加の中からどれを使うかが分かる
- 必要エネルギーの算出式に使う体重が決定される
BMI | 計算式に使用する体重 |
30以上の肥満 | ABW 調整体重 :(BW-IBW)×0.25+IBW |
30未満25以上 | IBW 標準体重:身長(m)×身長(m)×22 |
25未満18.5以上 | UBW 確認した普段の体重をそのまま使う |
18.5未満16.1以上 | IBW 標準体重:身長(m)×身長(m)×22 |
16.1未満 | UBW+追加 普段の体重を確認、目指す必要エネルギー分を追加 |
- 患者の体重(BW)を聞き取り・測定等で確認、BMIを算出。※ BMI=BW(kg)/身長(m)/身長(m)
- 算出されたBMIが下記の表でどこに該当するかを確認、目線を右へ
- ABW・IBW・BW・UBW+追加の中からどれを使うかが分かる
- 必要エネルギーの算出式に使う体重が決定される
BMI | 計算式に使用する体重 |
30以上の肥満 | ABW 調整体重 :(BW-IBW)×0.25+IBW |
30未満25以上 | IBW 標準体重:身長(m)×身長(m)×22 |
25未満18.5以上 | BW 今回測定した体重 |
18.5未満16.1以上 | IBW 標準体重:身長(m)×身長(m)×22 |
16.1未満 | BW+追加 現在の測定した体重に目指す必要分を追加 |
※IBWルートは体重不明・測定困難な場合
IBW (標準体重:身長m×身長m×22) を使用する事が決定。ただし、極端にやせてる場合はIBWより減らる(どれくらい減らすかは計算者の経験から)。
STEP❶~❷の手順で必要エネルギー計算式につかう体重が決まれば、次の項(体重に乗じる定数の決定)へ。
イメージとしては必要エネルギーを算出する患者さんの、水分を除いた目指すべき体重を決めています。
体重に乗じる定数の決定方法

エネルギー必要量算定式に用いる体重が決まれば、次に乗じる定数を決めます。病態によって異なりますが、大体30kcal/kg/日前後です。
状態 | 体重あたりの必要エネルギー量 | 補足 |
基礎代謝(BEE) | 20kcal | 最低限確保したいエネルギー |
健康な人 | 30kcal | 活動度と体重変化を考慮し増減 |
糖尿病・肥満等 | 25~30kcal | 侵襲が無い、生活習慣病 |
透析 | 30~35kcal | |
慢性腎臓病 | 25~35kcal | |
急性腎障害 | 20~30kcal | |
褥瘡 | 30~35kcal | 大きさ・深さ等の程度を考慮 |
炎症性腸疾患 | 30~35kcal | |
COPD | 30~40kcal | |
肝不全 | 25~35kcal | 耐糖能異常で25kcal |
リフィーディング症候群 | 10kcal( BMI16以下 ) | 5kcal(BMI14以下は) |
重症期 | 25~30kcal | 初期1週間は少なく投与 |
各種ガイドライン・教科書を参考にしています。幅があるので、1600~1800kcal といった具合にエネルギーは算出されます。
計算例・補足

では、今まで考えてきた体重・定数をつかって計算例を示していきます
計算例 入院時を想定
- 1⃣計算式に使う体重:体に水が溜まっていない事を確認(STEP①)、たまってい無かったのでBWルート(STEP② -2 )へ。BMIは17.3なので「18.5未満16.1以上」に該当、IBWである63.5kgを計算に用いる事を決定
- 2⃣体重に乗じる定数:糖尿病は高齢者の目標値(HbA1c7.0)をなんとか下回っている、腎不全・褥瘡を考慮して30kcalを用いる事を決定。(念のためリフィーディングの兆候が無いかはチェック)
- 必要エネルギー量の計算式:1⃣63.5×2⃣30→1905kcal
以上で初期の必要エネルギー量(目標)が決まりました。
- モニタリング:栄養投与を開始した日から血糖値をチェック。高血糖は褥瘡治癒には悪影響となるので、血糖〇〇以上いったら投与栄養を糖尿内科or主治医へ相談と決める。褥瘡の治癒がとぼしければ、過栄養(血糖・BUN等)が無いことを確認しつつ エネルギーを増量する。体重は透析を行っているので変動幅をチェック。採血・褥瘡回診を考慮して再モニタリング日・頻度を決定
補足
必要エネルギー量を計算すると具体的な数値が出てくるので、守りたくなります。しかし、出てきた数値は科学的根拠としては弱く、 正確に人の体の消費エネルギーを知ろうとするとヒューマンカロリメーターを使わなければなりませんし、 どれくらい体が栄養を吸収しているかは分からないため、モニタリングが重要となります。
- 四肢を切断された患者はどうするか?
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下記の図から補正値を代入、推定式を用いて実体重(本来手足があった場合の)を算出
推定式:実体重=現体重×[1+補正値(%)÷100]

栄養管理の目的は正確な必要エネルギーを出す事ではないので、モニタリングに力を割いて投与エネルギーは修正を繰り返した方が良いと思います。計算に慣れてくれば、ポケットに忍ばせた電卓のみでエネルギー量を答えられるようになりますよ。
おわり